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「アジアダンス会議」

2007年2月8日
森下スタジオの「アジアダンス会議」に行く(ITI日本センター主催)。

11:30〜13:00、Aスタジオでヘリー・ミナルティさん(女性、研 究者、インドネシア)による「アジアのダンス」をテーマにしたレクチャ ー。インドネシアの超エリート、金持ちの家の出身なのだろう。ロンドン留 学し、大学でダンスなんていうお金にもならない美学の研究を重ねているく らいだから。マックコンピューターをテーブルに置き、背後にスクリーン。 コンピューターから話の途中、途中に映像を取り出し、スクリーンに映して のレクチャー。さすが、現代っ子!地球上、どこでもこんなに手軽にアーチ ストの作業を切り取りし、お話できるんだ。。。。と変なところに関心。お しゃれだなあ。しかし、アーチストの現状、コンテンポラリーダンサーの日 本での現状は、最下層、超貧乏、経済困難、先行き不透明、生活的には絶望 的・・・、なんだなあ。このギャップ。


彼女の話のテーマは、インドネシアの民主化以降(スハルト政権退陣以降) の9年間の動きに関して・・・。1987年の政変で、ようやく民主化、近 代化に踏み出したインドネシア。。。

ダンスでは、コンテンポラリー、がインドネシアの民俗伝統芸能の連続とし てごく自然にある。近代化と西洋化(日本は近代化=西洋化)の過程が日本 と全く異なるようだ。それは一昨日のインドの近代史、とも異なる。


インドネシアは国としての統一性にかける3〜40,000の島からなり、 強権政府によりこれまで強引に国として統一体を保ってきた。それが民主化 した途端、それぞれが言いたいことを言い出し、それが、対立、内紛、抗争 にまで発展している。何だか、本末転倒状態。

レクチャーの後、スタジオの外で会話を交わしたパプアから来たジェコ・シ オンポによるなら、最後の州となったパプアには200の別々の言語があ り、それぞれの言語は互いに全く通じない、もちろんジャワの言葉/インド ネシア語とは全く異なるとのことだ。


こんなインドネシアではダンスの表現がつねに政治と関係してきたという。 最近の若い人々のダンスでも(民主化以降)、スハルト政権(独裁政権)下 の激しい政治性、ほどはないにしても社会性、社会問題がつねに題材として 取り上げられる。

「コンテンポラリー」という定義が曖昧なのか、日本ではバレエ→モダン→ コンテンポラリー、と西欧の文脈で形式の変化を言うように思うが、どうや らそういうことではないらしい。日本でも’J’というキーワードによっ て、西欧や敗戦によるアメリカコンプレックスからの脱却としての新たな 「日本回帰」現象と関係して、とらえられるようでもある。


常樂泰氏のワークショップ、13〜14:30、Cスタジオにて。広島で身 体表現サークル主宰。彫刻をやっていた、とか。。。だから、身体に対する アプローチが自分の内側の感情や主観から入りがちな通常のダンサーとは異 なり、客観的に自分を扱っている感じで面白い。「先生」ごっこ、から始ま り、「作家」ごっこに。。。


日本の最近の若い世代のダンスの傾向は、観客とダンサーの敷居が近くなっ て来たことだ。それは誰でもダンスに参加できる(昔の盆踊りや人々が踊り を楽しんだように)、これは近代によって分割され、資本主義下で商品化= スペクタクル/娯楽、化されてきた近代芸術としての舞踊の文脈からの脱 皮、と捉えられるだろう。「実験・創造工房」コンセプト、シアターファク トリーの理念と共通するものか。。


話は聞けなかったが、隣のAスタジオでは武藤大祐氏のレクチャーがあっ て、日本人同士で見解の相違から紛糾したようだ。日本のコンテンポラリー ダンスの「反スペクタクル的傾向」の捉え方を巡ってか。’J’、を新たな ナショナリズムとの関連でどう捉えるか、これはダンスに留まらず、演劇、 美術、音楽(Jポップ)の、西欧あるいはアメリカ文化の影響からの脱皮、 それと相乗して起きる新たな日本回帰現象・・・たとえばオタクと日本伝統 絵画を結びつける村上隆の例のように・・・いま、まさに考慮すべきことで あることは確かだ。安倍政権の「伝統文化」「日本回帰」ともリンクする問 題である。明治のアジア主義が、やがて反西欧の「ビッグ・イースト・アジ ア」(大東亜)思想に変質して行った日本の歴史過程とのそれを支える内面 (共同体の無意識)との関連で思考されなければならない。

ダンスで起きていることを巡って、日本で起きている政治思潮の変化、社会 意識の変化の現状をどうとらえるか、が考えられる。と同時に近代化の歴史 過程が異なるほかのアジアの社会背景と芸術思潮の関係を知ることで、日本 を、自分たちを客観的に考えることが出来る。韓国の演劇を通じて日本の現 在を考える、知ることと、アジアのダンスを知る、ことでやはり自分たち (日本と現代日本人)を客観化する、次から次に思考がめぐり、整理する時 間がもっと欲しい。思考の旅、面白い。

夜、ワークショップがあるので、次の話(タイ、その後シンガポール)も聞 きたかったが、会場を離れる。



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